日本企業は急速なデジタル化や産業構造の変化に直面し、従業員のスキルアップとリスキリングが喫緊の課題となっています。
こうした背景から、厚生労働省は「人材開発支援助成金」の一環として「人への投資促進コース」を設け、企業の人材育成を強力に後押ししています。
デジタル分野や成長分野に対応する高度人材の育成、従業員の自発的な学びの支援、多様で柔軟な研修形態への対応を目的とし、企業の競争力強化と労働者のキャリア形成を同時に促進する仕組みです。
人材開発支援助成金 人への投資促進コース
「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)」は、事業主などが雇用する労働者に対して、事前に作成した計画に沿って職務に関連した訓練を実施する場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
「人への投資」を加速化するため、令和4年度から令和8年度までの期間限定助成として創設されたコースで、国民からの提案を制度化したものです。
本コースには、次の5つの訓練が用意されています。
(1)高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
・高度デジタル人材等の育成のための訓練
(2)情報技術分野認定実習併用職業訓練
・IT分野未経験者の即戦力化のための訓練
(3)定額制訓練
・サブスクリプション型の研修サービスによる訓練
(4)自発的職業能力開発訓練
・労働者が自発的に受講した訓練について、その費用を負担した事業主に対して行われる助成
(5)長期教育訓練休暇等制度
・長期教育訓練休暇制度や教育訓練短時間勤務等制度を導入し、労働者が働きながら、または休暇を取得して訓練を受講できる環境を整備した場合に助成される制度
【支給対象事業主】
対象となる事業主の主な要件は以下の通りです。
・雇用保険適用事業所であること
・労働組合などの意見を聴いて事業内職業能力開発計画およびこれに基づく職業訓練実施届を作成し、その内容を労働者に周知していること
・「職業能力開発推進者」を選任していること
・基準期間に、雇用する被保険者を解雇などの事業主都合により離職させた事業主以外の事業主であること
・被保険者に職業訓練を受けさせる期間中も、賃金を適正に支払っている事業主であること
・助成金の支給または不支給の決定に係る審査に必要な書類等を整備、5年間保存している事業主であること など
【支給対象労働者】
以下の要件を満たす労働者が対象です。
・助成金を受けようとする事業所において、被保険者であること
・訓練実施期間中において、被保険者であること
・「対象労働者一覧」に記載されている被保険者であること
(定額制訓練および自発的職業能力開発訓練のうち定額制サービスによる訓練の場合は「定額制サービスによる訓練に関する対象労働者一覧」に記載されている被保険者であること)
・「通学制・同時双方向型の通信訓練」、「eラーニング・通信制による訓練、海外の大学院」、「定額制サービスによる訓練」の受講要件を満たしていること
・育児休業中訓練である場合、育児休業中に労働者本人の自発的な申し出により訓練を受講する者であること
【経費助成率・賃金助成額】
・高度デジタル人材訓練(OFF-JT):75%(60%)・1,000円(500円)
・成長分野等人材訓練(OFF-JT):75%・1,000円(国内大学院の場合)
・情報技術分野認定実習併用職業訓練(OFF-JT):60%(45%)《75%(60%)》・800円(400円)《1,000円(500円)》
・情報技術分野認定実習併用職業訓練(OJT):20万円(11万円)《25万円(14万円)》
・定額制訓練(OFF-JT):60%(45%)《75%(60%)》
・自発的職業能力開発訓練:45%《60%》
・長期教育訓練休暇等制度:制度導入経費20万円《24万円》・1,000円(800円)《(1,000円)》
・教育訓練短時間勤務等制度:制度導入経費20万円《24万円》
※()内は大企業の場合の助成率(額)で、《》内は、賃金要件・資格等手当要件などを満たした場合の助成率(額)です。
【助成金の限度額】
1事業所が1年度に受給できる助成金の限度額は以下の通りです。
・人への投資促進コース(成長分野等人材訓練除く):2,500万円(自発的職業能力開発訓練は300万円)
・成長分野等人材訓練:1,000万円
※1年度とは、支給申請日を基準とし4月1日から翌年3月31日までのことをいいます。
※受講者1人当たりの助成金の限度額も設定されていますので、詳細は要綱をご確認ください。
【おわりに】
「人への投資促進コース」は、企業のDX推進や成長分野対応に不可欠な人材育成を支援する制度です。
特に中小企業にとっては、コスト負担を大幅に軽減しながら高度なスキル習得を実現できるチャンスです。
制度活用には、事前計画・書類整備・要件確認が必要になります。
人材育成を経営戦略に組み込み、助成金を最大限活用することで、企業の競争力強化と従業員のキャリア形成を同時に実現できます。
本制度の活用をご検討してみてはいかがでしょうか。
昨今のインボイス制度や電子帳簿保存法の改正など、目まぐるしく変化する経理実務のなかでも、経理担当者が特に理解しておきたいのが「優良な電子帳簿」です。
これは電子帳簿保存法において、特定の要件を満たして保存される国税関係帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)のデータを指しています。
通常の電子データ保存よりも高い基準をクリアしたこの帳簿には、税務調査時のリスク軽減をはじめとしたメリットがあります。
経理のDX化を進めるうえで重要な目標となる「優良な電子帳簿」の基礎と、その導入について解説します。
「優良な電子帳簿」が満たすべき高度な基準
電子帳簿保存法では、会計ソフトなどで作成した帳簿データを保存する際、最低限守らなければならない「一般要件」と、より信頼性の高い「優良要件」の2つを区分しています。
「優良要件」と認められるためには、単にパソコンの中にデータがあればよいというわけではなく、データの真実性(改ざん防止)と可視性(検索・表示)を高いレベルで保証する必要があります。
具体的には、訂正や削除を行なった際にその履歴がすべて自動的に残り、内容を確認できる機能が必要です。
また、通常の検索能に加え、範囲指定や複数の条件を組み合わせた複雑な検索ができることや、仕訳帳と総勘定元帳などの関連する帳簿同士が相互にリンクしており、スムーズに照合できることも求められます。
つまり、税務署側から見て、データが改ざんされておらず、追跡調査が容易なシステム環境で作成された帳簿が、「優良な電子帳簿」として認められるということです。
導入することで得られる経営上のメリット
「優良な電子帳簿」を導入する最大のメリットは、税務コンプライアンス上の優遇措置にあります。
特に重要なのは、過少申告加算税の軽減措置です。
もし、将来的に税務調査が入り、申告漏れなどを指摘された場合、通常であれば追徴税額に加えて過少申告加算税が課されます。
しかし、あらかじめ届出を行い、優良な電子帳簿の要件を満たして管理・保存している場合であれば、その電子帳簿に関連する申告漏れがあった場合でも、それに対する過少申告加算税が5%軽減される規定があります。
ただし、隠蔽や仮装があった場合を除きます。
また、個人事業主の場合には、青色申告特別控除におけるメリットもあります。
通常55万円の特別控除ですが、優良な電子帳簿の要件を満たすことで、最大65万円の控除を受けることが可能になります。
ただし、65万円の控除を受けるための要件は「優良な電子帳簿の備え付け」だけが選択肢ではなく、「e-Tax(電子申告)による申告」を行うことでも達成できます。
したがって、個人事業主の場合は、特別控除を受けるためには必ずしも優良な電子帳簿が必須条件ではないという点は留意しておきましょう。
優良な電子帳簿を導入するステップ
導入するうえで重要なのは、対応システムの選定です。
自社開発のシステムでない限り、市販の会計ソフトを利用することになりますが、その際は「JIIMA認証」を受けている製品を選ぶのがベストです。
これは公益社団法人日本文書情報マネジメント協会が、法的要件を満たしていると認証したソフトウェアのことで、そのなかでも「優良な電子帳簿」に対応している製品を選べば、機能面の要件についてはクリアできます。
次に、税務署への手続きが必要です。
電子帳簿保存法自体は事前承認制度が廃止されましたが、「過少申告加算税の軽減措置」を受けるためには、あらかじめ所轄の税務署へ「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」を提出しなければなりません。
システムを入れるだけでは優遇措置は適用されないため、この手続きは忘れないようにしましょう。
前述したように、優良な電子帳簿の制度自体は、法人だけでなく個人事業主でも利用が可能です。
事業規模が小さくても、税制優遇のメリットを受けられる権利は平等にあります。
しかし、実務的な「手間の費用対効果」を考えると、慎重な判断が求められます。
優良な電子帳簿の要件を満たすためには、厳格な訂正履歴の管理や詳細な検索機能を持つ高機能な会計ソフトが必要となり、運用コストや学習コストがかかる場合があります。
もし、目的が「青色申告特別控除を65万円にすること」だけであれば、帳簿要件が厳しくなる方法を選ぶよりも、現在の会計処理のままe-Taxを利用して確定申告を行うほうがより目的を達成しやすいでしょう。
個人事業主が導入を検討する際は、控除額だけでなく「万一の調査時の安心感」や「帳簿管理の透明性向上」に、どれだけの価値を見出すかで判断しましょう。
「優良な電子帳簿」は企業の信頼性と管理能力を示す一つの指標ともいえます。
導入にはシステムの選定や届出といった準備が必要ですが、この機会に、より強固で透明性の高い経理体制を構築してみてはいかがでしょうか。